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吸い込んでしまった飛沫や飛沫核が、まず触れるのが鼻やのどの粘膜です。
ここが、体にとって最初の防御ラインになります。
鼻やのどの内側には、外敵をブロックするための仕組みがあらかじめ用意されています。
主な要素は、粘膜(壁)、粘液(ヌルヌルした液体)、繊毛(細かい毛)の3つです。
これらは、次のような流れで異物を外へ運び出しています。
このベルトコンベアのような動きによって、吸い込んだ異物がゆっくりとのどへ運ばれ、体の外へ出されていきます。

呼吸器官を覆っている粘液は、ウイルスやホコリを捕まえるフィルターのような役割を持っています。
成分は水と「ムチン」というタンパク質が中心で、粘り気があるおかげで、触れた異物を吸着して動けなくしてくれます。
体は、この粘液を1日におよそ1〜2リットルほど作り続けていると言われています。
大部分は意識しないうちに飲み込まれていて、飲み込まれた粘液(と一緒に捕まったウイルスなど)は胃に運ばれ、強い胃酸によって分解されていきます。
この「粘液と繊毛」のシステムがきちんと働いていれば、侵入した異物のかなりの部分(おおよそ9割前後)を入口の段階で押し戻せると考えられています。
第1部で見たように、咳のしぶきの中には大量のウイルスが含まれていましたが、その多くは免疫細胞が戦う前に、こうした仕組みの働きで外へ排出されます。
粘膜がどれほど大事なフィルターとして働いているかを感じると、「まずここを整えること」が感染対策の土台なんだなと実感します。
とはいえ、この仕組みにも弱点があります。それが「乾燥」です。
冬場の暖房の効いた室内では、湿度が20〜30%まで下がることがあります。
湿度が低い状態が続くと、粘膜まわりには次のような変化が起きてきます。
湿度が30%前後より低くなると、こうした粘膜バリアの働きが目に見えて落ちるという報告もあり、ウイルスが体内へ入り込みやすい環境になってしまうと考えられています。
この「乾燥した空気」と「弱った粘膜」の組み合わせが、冬に体調を崩しやすくなる大きな要因の一つとなります。

ここまでの内容から、室内の湿度をおおよそ50〜60%に保つことが、鼻やのどの防御システムを守るうえで一つの目安になってきます。
もちろん、住まいの構造や体質によって「快適に感じる湿度」は少しずつ違いますし、カビ対策など別の視点も必要になります。
あくまで一つの目安として、加湿器の活用や換気、洗濯物の室内干しなど、できる範囲で湿度と空気環境を整えてみるのも良さそうだなと思います。
粘膜による防御システムがきちんと働いていても、すべてのウイルスを完全に防ぎきれるわけではありません。
粘膜が乾燥して弱っていたり、圧倒的な数のウイルスが一度に入ってきたりすると、その一部がどうしてもバリアをすり抜けてしまいます。
ここからが、本来の意味での「免疫システム」の出番です。

ウイルスが体の中で増えていくためには、まず「細胞」の内部に入り込む必要があります。
細胞の表面には、特定の物質だけを受け取る「受容体(じゅようたい)」という構造があり、これは決まった形の鍵しか合わない「鍵穴」のような存在です。
ウイルスの表面には、この鍵穴と組み合わさる「鍵」の役割を持つ突起があります。その突起が合う受容体を持った細胞に出会うと、二つがかみ合うイメージで細胞の中へ入り込んでいきます。
種類によって狙う鍵穴は違いますが、「鍵と鍵穴の組み合わせで細胞に乗り込む」という基本の流れは共通しています。
細胞の中に入ったウイルスは、そこで自分のコピーづくりを始めます。
ウイルス自体には、自力で仲間を増やす設備はありません。
そこで、細胞の中にある「タンパク質を作る装置」を勝手に乗っ取り、自分の設計図を読み込ませてコピーをどんどん作らせます。
そうやってコピーが山ほど詰め込まれた細胞は、やがて限界を迎えて壊れてしまいます。
すると、中にいた数千ものウイルス粒子が一度に外へ飛び出し、すぐ近くの「まだ無事な細胞」を次々と狙って、同じことを繰り返していきます。
こうして「1つが数千になり、その数千がそれぞれ次の細胞を乗っ取る」という連鎖が起こることで、ウイルスが体の中にどんどん広がっていきます。
これが、「感染」と呼ばれている現象の正体です。
ただ、ウイルスに乗っ取られた細胞が、何もせず黙っているわけではありません。
自分が異常な状態になったことを周りに知らせるために、「サイトカイン」と呼ばれる物質を放出し、体の中に警報を鳴らします。
この警報には、いくつかの役割があります。
こうした合図が全身に届いていくことで、「今、ここで戦いが起きているぞ」という情報が伝わり、免疫システム全体が戦闘モードに切り替わっていきます。
警報を受けて、現場に真っ先に駆けつける代表選手が「マクロファージ」です。
名前の通り「大食い細胞」という意味で、ウイルスそのものだけでなく、感染して壊れてしまった細胞などもまとめて飲み込んで処理します。
マクロファージは、ふだんから血液や組織の中をパトロールしていて、怪しいものを見つけると細胞の中に取り込み、酵素を使って細かく分解してしまいます。
1つのマクロファージで、おおざっぱに言うと100個前後の異物を処理できるとされていて、処理を進めながら、さらに別の免疫細胞を呼び寄せる信号も出しています。
次に登場するのが、NK(ナチュラルキラー)細胞です。マクロファージが「食べて片づける掃除役」だとしたら、NK細胞は「おかしくなった細胞を見つけて処分する専門チーム」のようなイメージです。
NK細胞は、表面の目印などを手がかりに、ウイルスに感染して異常になった細胞を見分けます。
ターゲットを見つけると、その細胞の膜に小さな穴を開け、細胞が自分で壊れるように仕向ける物質を注入します。
中でウイルスがコピーを大量に増やし終える前に、細胞ごと処理してしまうことで、被害が広がるのを食い止めているわけです。
マクロファージやNK細胞のように、生まれつき備わっていて、敵の種類に関係なくすぐ反応してくれる仕組みを「自然免疫」と呼びます。
特定のウイルスの名前や特徴を細かく覚えているわけではありませんが、「これは自分の体の一部か、それとも異物か」というざっくりした見分け方で、素早く行動するのが仕事です。
鼻やのどの粘膜での排出(粘液線毛クリアランス)から、マクロファージやNK細胞による初期対応までが、自分の体で24時間休みなく続いている防衛ラインだと考えると、ふだん意識していないところでかなり頑張ってくれているのだなと感じます。

この記事では、体がもともと持っている「最初の防御」について整理してきました。
鼻やのどの粘膜が、入ってきたウイルスを捕まえて外へ運び出してくれていること。
そして、もしそのバリアを突破されてしまっても、マクロファージやNK細胞といった免疫細胞が現場に駆けつけて、感染した細胞ごと処理しようとしてくれることを見てきました。
仕組みを少し細かく追いかけてみると、「よくできているなあ」と思わされます。
体の中でこうしたやり取りが本当に行われているのかと想像すると、昔読んだマンガの一場面を思い出すような、ちょっと不思議な感覚にもなりました。
もちろん、鼻やのどに違和感が続いたり、熱やだるさが強かったりする場面で、自分だけの判断に頼るのには限界があります。
鼻やのどの不調は、生活環境やアレルギー、感染症などいくつかの要因が重なっていることも多いので、気になる場合は耳鼻科やかかりつけ医に相談してみるのも一つの方法です。
あらかじめ「困ったときに相談できる場所」を確認しておきつつ、湿度など、自分で調整しやすい環境面を少しずつ整えていく。
その両方を組み合わせることが、これからも落ち着いて冬を越していくための備えになってくれそうだなと感じています。