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2月末、あるスーパーのたまごサンドを食べた翌日に、いつもより明らかに症状が悪化しました。
目のかゆみはひどく、くしゃみ・鼻水・鼻詰まりは止まりません。
もちろん、この時期はもともと花粉の飛散量が多かったので、たまごサンドのせいだと断定はできません。
ただ、「もしかして食べ物が関係しているのでは」と気になって、調べてみることにしました。
調べていくと、花粉症と食事の関係には大きく3つのルートがあることがわかりました。
食べ物に含まれるヒスタミンという物質が症状を増幅させるルート、花粉と似た構造を持つ食べ物が体内で誤認されて反応を起こすルート、そして腸内環境を通じて免疫のバランスが変わるルートです。
この記事では、そのうち「花粉症を悪化させる」側の話をまとめています。
和らげる側の話(腸内環境やプロバイオティクスなど)は、次の記事で書く予定です。
花粉症の症状を引き起こしている物質の一つが、ヒスタミンです。
ヒスタミンはもともと、体を守るために働く物質です。
たとえば傷口から細菌が入ったとき、体の中でヒスタミンが放出されて血管を広げます。
血管が広がると血流が増えて、白血球などの免疫細胞がその場所に集まりやすくなる。くしゃみや鼻水も、鼻に入ってきた異物を外に押し出すための防御反応です。
ここまでは、花粉症でない人にも普通に起きていることです。
このヒスタミンを出しているのが、肥満細胞という細胞です。
名前に「肥満」とつきますが、太ることとは関係ありません。
中にヒスタミンなどの化学物質をたくさん詰め込んでいて、顕微鏡で見るとぷっくり膨らんで見えるので、この名前がつきました。
皮膚や鼻の粘膜、腸など、外から異物が入りやすい場所に多く配置されていて、異物を見つけるとヒスタミンを放出して体に警報を出す、いわば「見張り役」のような存在です。
問題は、花粉症の人の体では、この見張り役が本来無害な花粉を「危険な異物」と誤認してしまうことです。
その結果、肥満細胞がヒスタミンを大量に放出し、くしゃみ、鼻水、目のかゆみといった症状が過剰に起きてしまいます。
防御システムの誤作動のようなものです。
ここで重要なのは、ヒスタミンは花粉だけが原因ではないということです。
食べ物の中にもヒスタミンは含まれています。
体にはヒスタミンを分解する仕組みがあって、その中心を担っているのがDAO(ジアミンオキシダーゼ)という酵素です。
腸の粘膜でこの酵素が、食べ物から入ってくるヒスタミンを分解してくれます。
ただし、DAOの処理能力には限界があります。
花粉シーズン中は、花粉への誤反応によって肥満細胞からヒスタミンがすでに大量に出ている状態です。
いわば、体の中の「ヒスタミンのバケツ」がもう半分以上溜まっている。そこに食べ物由来のヒスタミンが上乗せされると、バケツがあふれて症状が一気に強くなります。

具体的には、次のような食品にヒスタミンが多く含まれています。
熟成チーズ(パルメザン、ゴーダ、チェダーなど)、ザワークラウト、キムチなどの発酵食品。
ハム、ソーセージ、ベーコン、サラミといった加工肉。
鮮度が落ちたサバ、イワシ、マグロ、カツオなどの青魚。赤ワインやビールなどのアルコール飲料もヒスタミンを含みます。
トマト、ナス、ホウレンソウなどの野菜にも含まれています。
実際、花粉シーズン真っ只中にナポリタンを食べた翌日、首が真っ赤になってかゆみがひどくなったことがありました。
トマトソースをたっぷり使った料理だったので、トマトのヒスタミンがバケツを押し上げた可能性があります。
一方で、食品自体のヒスタミン含有量は少ないのに、肥満細胞を刺激してヒスタミンの放出を促す食品もあります。
チョコレート、バナナ、イチゴ、エビ・カニなどがこれにあたり、「ヒスタミンリベレーター」と呼ばれています。
バケツに直接水を注ぐのではなく、蛇口を開けてしまうようなイメージです。
ただし、食品中のヒスタミン量は保存状態や調理法によってかなりばらつきがあり、同じ食品でも個人によって反応が違います。
「この食品を食べたら必ず悪化する」というものではなく、自分が何を食べたときに症状が変わったかを観察するのが現実的です。
ちなみに、DAOがちゃんと働くためにはビタミンB6、ビタミンC、銅、亜鉛といった栄養素が必要です。
これらが不足するとDAOの働きが落ちて、ヒスタミンの分解が追いつかなくなる可能性があります。
花粉シーズンにお酒を飲んで、翌朝いつもよりひどい症状に見舞われた経験がある人は少なくないと思います。
これには明確な理由があって、アルコールは3つの方向から花粉症を悪化させます。
1つめは、アルコール飲料そのものにヒスタミンが含まれていることです。
特に赤ワインやビールのような発酵を経てつくられるお酒は、製造過程でヒスタミンが生成されます。
飲んだ時点で、バケツに直接ヒスタミンを注いでいるようなものです。
2つめは、アルコールが体内で分解されるときに生まれるアセトアルデヒドという物質が、肥満細胞を直接刺激してヒスタミンを放出させることです。
お酒を飲むと顔が赤くなる人がいますが、あれもアセトアルデヒドの影響です。
花粉シーズンにこれが起きると、すでに花粉で活性化している肥満細胞がさらに刺激されて、ヒスタミンの放出量が増えてしまいます。
3つめは、アルコールとアセトアルデヒドの両方が、前のセクションで触れたDAO(ヒスタミンを分解する酵素)の働きを邪魔することです。
ヒスタミンが増えているのに、それを分解する力が同時に弱まる。入ってくる水が増えて、排水口が詰まるような状態です。

この3つが同時に起きるので、花粉シーズンの飲酒はかなり効率よく症状を悪化させてしまいます。
花粉症の専門医を対象にしたアンケートでも、9割を超える医師が「飲酒は花粉症を悪化させる」と回答しています。
全部やめなければいけないという話ではありませんが、花粉症がつらい時期に「なんで今日はこんなにひどいんだろう」と思ったら、前日にお酒を飲んでいなかったか振り返ってみる価値はあると思います。
花粉症の人が特定の果物や野菜を食べたときに、口の中がかゆくなったり、唇が腫れたりすることがあります。
これは「花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)」と呼ばれる現象で、花粉と食べ物に含まれるタンパク質の構造がよく似ているために起きます。
仕組みはこうです。
まず、花粉症の人の体には、花粉のタンパク質を「敵」と認識するIgE抗体がつくられています。
このIgE抗体は肥満細胞の表面にくっついて、同じ敵が来るのを待ち構えている状態です。
そこに、花粉のタンパク質と形がそっくりな食べ物のタンパク質が入ってくると、IgE抗体が「また来たな」と反応してしまう。本当は別物なのに、形が似ているせいで肥満細胞が作動して、アレルギー症状が出てしまいます。
このタイプのアレルギーでは、従来「加熱すれば大丈夫」とされてきました。
原因となるタンパク質の多くは熱に弱く、加熱すると構造が崩れてIgE抗体が認識できなくなるからです。
たとえば、シラカンバ花粉とリンゴの交差反応は、リンゴを加熱すればほぼ問題なくなります。
ところが近年、その常識が通用しないタンパク質が見つかりました。
GRP(ジベレリン調節タンパク質)です。
GRPは植物の成長に関わる小さなタンパク質で、内部に6つのジスルフィド結合という強固なつながりを持っています。
この構造のおかげで、熱にも消化酵素にも壊されにくい。2025年に北海道大学が行った構造解析では、90℃まで加熱しても安定した形を保っていることが確認されました。
スギ花粉にはCry j 7、ヒノキ花粉にはCup s 7というGRPが含まれていて、これらと構造が似ているGRPを持つ果物を食べると交差反応が起きます。
2021年のIizukaらの研究では、スギ花粉症の患者のうち46%がCry j 7に対する抗体を持っていたと報告されています。

従来のPFASでは、口の中がかゆくなる程度で済むケースが大半でした。
しかしGRPは加熱でも消化でも壊れないため、口腔内にとどまらず体内に吸収されやすく、全身にアレルギー反応が広がるリスクがあります。
昭和大学の解析では、GRP単独で感作された患者の約92%がアナフィラキシー(全身性の重いアレルギー反応)を経験しており、30%がショック症状に至っていました。
GRPを介した交差反応で特に注意が必要な食品は、研究の蓄積に差があります。
モモ、ウメ、ザクロ、オレンジ、サクランボは、いずれもGRPアレルゲンが国際的に正式登録されていて、臨床データも報告されています。
中でもモモのGRP(Pru p 7)は重症化のマーカーとして最も研究が進んでいます。
ピーマンも登録はされていますが、スギ・ヒノキ花粉のGRPとのアミノ酸配列の類似度はそれほど高くないとされています。
イチゴについては症例報告レベルにとどまっています。
重要なのは、これらの食品は加熱しても安全にならないということです。
GRPの交差反応は「火を通せば大丈夫」という従来のPFAS対策が通用しません。
とはいえ、スギ花粉症だからといって全員がGRPに反応するわけではありません。
感作されているかどうかは、Cry j 7に対する特異的IgE検査で調べることができます。
モモやウメを食べたときに口や喉に違和感を感じたことがある人は、一度検査を受けてみるのがいいかもしれません。
ここまでの内容をまとめます。
特に影響が大きいもの
アルコール(特に赤ワイン・ビール)は、ヒスタミンの供給・放出促進・分解阻害の3つが同時に起きるため、花粉シーズン中の影響が最も大きい食品です。
GRP交差反応食品(モモ、ウメ、ザクロ、オレンジ、サクランボなど)は、スギ・ヒノキ花粉症でGRPに感作されている人にとって、加熱しても回避できないという点で注意が必要です。
ただし全員に当てはまるわけではなく、感作の有無が分かれ目になります。
関与する可能性があるもの
熟成チーズ、鮮度の落ちた青魚、加工肉などの高ヒスタミン食品は、花粉シーズン中のヒスタミン総量を押し上げます。
トマト、ナス、ホウレンソウなどもヒスタミンを含む食品として挙げられています。
砂糖や精製された炭水化物の過剰な摂取は、炎症を促すサイトカイン(免疫細胞が出す信号物質)の放出を増やし、腸内環境も乱しやすいと報告されています。
週に3回以上のファストフードの摂取は、全身の炎症指標の上昇やアレルギー疾患の増加と関連するというデータがあります。
大豆油やコーン油に多いオメガ6脂肪酸は、体内で炎症を引き起こす物質の材料になります。
環境省の「花粉症環境保健マニュアル」でも、食の欧米化が花粉症増加の一因として挙げられています。
ここで一つ、ややこしい話があります。
日本では花粉症対策としてヨーグルトや納豆、味噌などの発酵食品がよくすすめられています。
これは、発酵食品に含まれる乳酸菌やビフィズス菌が腸内環境を整えて、長期的に免疫のバランスを改善してくれるからです。
この話は次の記事で詳しく書きます。
一方で、発酵食品はヒスタミンを多く含む食品でもあります。
腸活のメリットとヒスタミンのリスクが、同じ食品の中に同居しているわけです。
多くの人にとっては、腸活のメリットがヒスタミンのリスクを上回ると考えられています。
ただし、発酵食品を食べるたびに症状が悪化するような場合は、ヒスタミンの分解能力が追いついていない可能性があるので、食べる量やタイミングを調整してみるのも一つの手です。
ここまで色々な食品名が出てきましたが、これを全部避けるのは現実的ではないし、その必要もありません。
同じ食品を食べても反応が出る人と出ない人がいますし、その日の花粉の飛散量や体調によっても変わります。
大事なのは、症状がいつもよりひどいと感じたときに、前日や当日に何を食べたかを振り返ってみることです。
そうやって自分なりのパターンが見えてくると、花粉シーズンの食事で気をつけるべきポイントが自然に絞り込まれていきます。