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結論から言うと、お茶やコーヒーを飲むとき、僕たちは「成分が溶け込んだ水」を飲んでいます。
茶葉やコーヒー豆の中には、カフェイン、ポリフェノール(お茶ならカテキン、コーヒーならクロロゲン酸など)、カリウムやマグネシウムといったミネラル、そしてビタミン類など、さまざまな成分が含まれています。
これらの成分の多くは、「水に溶けやすい性質」を持っています。
だから、お湯を注ぐと、茶葉や豆の表面から少しずつ水の中に溶け出していきます。
お茶の色が出てくるのも、コーヒーの香りが立ちのぼるのも、この「溶け出し」の結果です。
色や香りと一緒に、カフェインやポリフェノール、ミネラルなども水の中に移動しています。
つまり、カップの中にあるのは、ほとんどが水です。
でも、その水には、茶葉やコーヒー豆から溶け出した成分が「溶けた状態」で含まれています。
我々はその「成分入りの水」を飲むことで、葉っぱや豆を食べなくても、中に入っていた成分を体に取り込んでいるわけです。

この仕組みは、お茶やコーヒーだけに限った話ではありません。
たとえば、味噌汁。
野菜やだしの素材から、うま味やミネラル、ビタミンなどが汁に溶け出しています。
具だけ食べて汁を残す人もいますが、実は汁のほうにも栄養が溶け込んでいます。
煮物の煮汁も同じです。だしや野菜のうま味、ミネラルが煮汁に溶け出しているから、煮汁にもちゃんと「中身」があります。
お茶やコーヒーは、いわばその「汁だけ」を楽しんでいる飲み物です。
固形物は取り除いて、水に溶け出した成分だけを飲んでいる。
そう考えると、「食べていないのに成分がとれる」という仕組みが、すこし身近に感じられるかもしれません。

ただし、茶葉やコーヒー豆に含まれるすべての成分が溶け出すわけではありません。
たんぱく質、脂質、食物繊維などは、水に溶けにくい性質を持っているため、ほとんどが茶葉や豆のほうに残ります。
抽出後のコーヒーかすや茶殻を見ると、ちゃんと「かさ」がありますよね。あれは、水に溶けなかった成分がそのまま残っている証拠です。
また、溶け出した成分がすべて同じ割合で体に吸収されるわけでもありません。
カフェインは飲んだ分のほとんどが体に吸収されますが、ポリフェノールの吸収率は種類によって大きく異なります。
だから、お茶やコーヒーは「これだけ飲んでいれば栄養が足りる」という飲み物ではありません。
あくまで、食事でとった栄養を補ったり、プラスアルファの働きを期待する飲み物、と考えるのが適切です。

ここでもうひとつ疑問が出てきます。
水でもいいのに、なぜわざわざお湯を使うのか?
理由はシンプルで、温度が高いほうが、成分が溶け出すスピードも、溶け出す量も増えるからです。
化学の世界では、一般的に水の温度が上がると、固体から溶け出す物質の量が増えることが知られています。
カフェインやカテキンなどの成分も、お湯のほうが短時間で、より多く溶け出します。
香り成分も、温度が高いほうが揮発しやすくなるため、お湯で淹れたほうが香りが豊かになります。
もちろん、水でも抽出はできます。
水出しコーヒーや水出し茶は、低い温度でゆっくり時間をかけて成分を引き出す方法です。
ただ、お湯なら数分で済むところが、水出しだと何時間もかかります。
さらに、温度によって溶け出す成分のバランスが変わるため、同じ豆や茶葉でも、お湯と水では味わいがかなり異なります。
お湯を使うのは、「短い時間で、欲しい成分を効率よく取り出すため」という、とても実用的な理由なんです。

最後に、もっと根本的な疑問に触れておきます。
栄養を効率よくとりたいなら、茶葉やコーヒー豆をそのまま食べればいいのでは?
理屈の上ではそうなのですが、実際にやってみると、いくつか問題が出てきます。
まず、味の問題です。
茶葉をそのまま噛むと渋みが強く、コーヒー豆をかじるとかなり苦いです。
お湯で抽出することで、成分が水で薄まり、味がマイルドになります。自分の好みに合わせて濃さを調整できるのも、抽出ならではの利点です。
次に、消化の問題です。
茶葉やコーヒー豆には、人間の消化器官では分解しにくい食物繊維や細胞壁が多く含まれています。
そのまま食べても、体がうまく処理できない部分が多いのです。
抽出は、「水に溶ける成分だけを取り出して、消化しにくい部分を捨てる」という、ある意味で合理的な方法です。
もちろん、「食べる」形がまったくないわけではありません。
抹茶は、茶葉を丸ごと細かい粉にして飲む方法なので、実質的には「茶葉を食べている」に近いスタイルです。
コーヒー豆をチョコレートでコーティングしたお菓子もあります。
ただ、多くの人にとっては、お湯で抽出するほうが味の調整がしやすく、体にもやさしく、毎日続けやすい。
だから、「抽出して飲む」というスタイルが主流になっている、ということなのだと思います。

お茶やコーヒーは、「食べていないのに成分がとれる」不思議な飲み物に見えます。
でも、仕組みはとてもシンプルです。
茶葉やコーヒー豆の中にある「水に溶けやすい成分」が、お湯に溶け出している。
我々は、その「成分入りの水」を飲むことで、カフェインやポリフェノール、ミネラルなどを体に取り込んでいます。
味噌汁の汁に栄養が溶け出しているのと同じ原理で、お茶やコーヒーは「汁だけを楽しむ飲み物」とも言えます。
ただし、溶け出すのは成分の一部だけで、たんぱく質や食物繊維はほとんど残ります。
お茶やコーヒーだけで栄養をまかなうことはできません。
あくまで、毎日の食事にちょっとしたプラスを添えてくれるもの、として付き合っていくのがちょうどいい距離感だと思います。
ところで、この仕組みを調べていくうちに、もうひとつ気になることが出てきました。
現代の僕たちは「カフェイン」や「ポリフェノール」という言葉で成分を理解していますが、昔の人はそんな知識を持っていなかったはずです。
それなのに、なぜ「お湯で抽出して飲む」という方法にたどり着けたのか。
次の記事では、その疑問を追いかけてみます。