朝の不安を「増幅させるもの」と「鎮めるもの」── 今日からできること

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目覚まし時計と天秤でバランスをとっているイラスト
前回の記事では、朝起きた瞬間に感じる焦りや不安の正体について書きました。 コルチゾールの急上昇、前頭前皮質がまだ起きていないこと、自律神経の切り替え。いくつもの仕組みが重なって、朝の「ざわざわ」を生み出していることがわかりました。 「体の仕組みだった」と知るだけでも気持ちは楽になるんですが、やっぱり気になるのは「じゃあどうすればいいのか」です。 今回は、朝の不安を悪化させている可能性のあるものと、それを和らげるために今日からできることについて、調べたことをまとめていきます。

まず知っておきたい「悪化させているかもしれないもの」

朝の不安は体の仕組みとして起こるものですが、日常の習慣によって、それが必要以上に強まっていることがあります。
僕自身、いくつか思い当たるものがありました。

コーヒーを飲むタイミング

コーヒーと時計のイラスト

コーヒーが好きな人にとっては少し残念な話かもしれませんが、問題はコーヒーそのものではなく、飲むタイミングにあるようです。

前回書いたように、起床後30〜45分はコルチゾールが急上昇している時間帯です。
カフェインにはコルチゾールの分泌をさらに促進する作用があるので、この時間帯にコーヒーを飲むと、すでに上がっているコルチゾールにさらに上乗せしてしまうことになります。

推奨されているのは、起床後60〜90分くらい経ってから飲むことです。
コルチゾールが自然に下がり始めたタイミングでカフェインを摂れば、覚醒効果を効率よく得られるし、不必要な焦燥感を避けられるとされています。

あと、空腹のままカフェインを摂ると血糖値の乱高下にもつながりやすいので、何か食べてからコーヒーを飲む、という順番も意識するといいかもしれません。

起きてすぐスマホを見ること

成人の80%が朝にすぐスマホを見るそうで、そのうち66%は起きて10分以内に見ているというデータがあります。
僕も正直、心当たりがあります。

これの何が問題かというと、起きた瞬間からSNSの通知やニュース、メールなどの外部刺激にさらされることで、交感神経がさらに活性化してコルチゾールやアドレナリンが上乗せされるということです。

もうひとつ大きいのが、「リアクティブモード」に入ってしまうこと。
自分のペースで朝を始めるのではなく、他人の投稿やメールの内容に反応する側に回ってしまう。まだ前頭前皮質がフル稼働していない時間帯に、判断や反応を求められる情報が次々に入ってくるわけです。

アルコールの翌朝:「ハングザイエティ」

お酒を飲んだ翌朝に、いつもより強い不安を感じた経験はないでしょうか。
これは「ハングザイエティ(Hangxiety)」と呼ばれていて、ちゃんとメカニズムが説明できる現象です。

飲酒中は、脳内でGABA(リラックス系の神経伝達物質)が増えて、グルタミン酸(興奮系)が減ります。
だからお酒を飲むとリラックスした気分になるわけです。
ところが、体はこのバランスの崩れを補正しようとして、GABA受容体を減らし、グルタミン酸受容体を増やす方向に調整します。

アルコールが抜けたあとに何が起こるかというと、GABAの抑制効果は消えているのに、グルタミン酸の興奮系は増強されたままになっています。
その結果、脳が過興奮状態になって、不安感が強く出てしまう。そこにコルチゾールの上昇と睡眠の質の低下が重なるので、お酒を飲んだ翌朝の不安は通常より強くなりやすいんです。

ちなみに、深夜3時頃にふと目が覚めてしまう「3am覚醒」も、アルコールが切れてコルチゾールとグルタミン酸が上昇することで起こるとされています。
若年成人の約22.6%が二日酔い中に不安を感じるというデータもあります。

睡眠不足の蓄積

睡眠が足りていないと、朝の不安が悪化するのは感覚的にもわかると思いますが、仕組みとしてもはっきりしています。

慢性的な睡眠不足は、扁桃体(感情を処理する部分)の反応を過剰にする一方で、前頭前皮質(理性的な判断を担う部分)の機能を低下させます。
前回書いた「ブレーキが効かない状態」が、睡眠不足によってさらに悪化するということです。

また、睡眠が足りないと、本来は夜に低くなるはずのコルチゾールが夕方にも高い状態で残りやすくなります。
正常なコルチゾールのリズムが崩れることで、朝だけでなく一日を通じて不安感が抜けにくくなります。

アメリカの調査では、成人の74%がストレスで、68%が不安で、睡眠に何らかの影響を受けていると報告されています。
不安→睡眠の質が下がる→朝の不安がさらに強まる→また眠れない、という悪循環に入りやすいのが厄介なところです。

血糖値の低下と脱水

見落としがちですが、朝は一晩(約8時間)何も食べていないので、血糖値が低い状態で目覚めています。低血糖になると、体はアドレナリン系のホルモンを出して対処しようとするのですが、このときの症状——動悸、発汗、ふるえ、不安感——が、不安の症状とほぼ同じなんです。

脱水も同様です。
寝ている間に呼吸や発汗で水分が失われていて、脱水状態はコルチゾールの上昇につながる可能性があると言われています。

テーブルの上にコーヒーと水とスマホが載っているイラスト

「休み明け」の朝がとくにきつく感じるのは気のせいじゃない

ここまでは日常的な習慣の話でしたが、もうひとつ、多くの人が感じているであろう「月曜日の朝が特別につらい」という問題についても触れておきます。

日本では「サザエさん症候群」や「ブルーマンデー」として知られていますが、江崎グリコが2018年に行った調査(20〜50代の1200人対象)では、月曜日を憂鬱と答えた人の割合が、働く男性で77%、働く女性で86%にのぼっています。20代に限ると男性88%、女性90%です。

これは「休みが終わるのが嫌」という気持ちだけの問題ではなくて、体の仕組みも関わっている可能性があります。
前回の記事で紹介した「コルチゾール覚醒反応(CAR)」——起床後30〜45分でストレスホルモンであるコルチゾールが急上昇する現象——は、その日に予測されるストレスの大きさに応じて上昇幅が変わることがわかっています。
実際、仕事がある日のCARは休日よりも大きくなるというデータがあります。
日曜の夜に「明日から仕事だ」と意識した時点で、すでに体は月曜の朝に向けて準備を始めていることになります。

ちなみにYahooの検索データでは、「つらい時の乗り越え方」「幸せとは」といった検索が、サザエさん放送の日曜18時以降に増えるそうです。

朝の不安を和らげるためにできること

ここからは、朝の不安を和らげるために今日からできることを書いていきます。
「これをやれば絶対に治る」という話ではなくて、体の仕組みを理解した上で、その仕組みに沿った対処法を選ぶという考え方です。

体へのアプローチ

カーテンを開け、陽の光が差し込んでいるイラスト

朝の光を浴びる(10〜15分)

朝の光には体内時計をリセットする効果があって、コルチゾールのリズムを正常化するのに役立ちます。
起きたらカーテンを開ける、ベランダに出る、それだけでも違うとされています。直射日光でなくても、曇りの日の屋外の光で十分だそうです。

起きたらまず水を飲む

一晩の脱水を解消するために、起きてすぐコップ一杯の水を飲む。
コーヒーより先に、まず水。シンプルですが、脱水によるコルチゾール上昇への対策になります。

コーヒーは起きて60〜90分後に

先ほど書いた通り、コルチゾールが自然に下がり始めるタイミングで飲むのがベストです。
コーヒー自体は悪いものではないので、タイミングを少しずらすだけで随分変わるかもしれません。

朝食にタンパク質を含める

血糖値の安定が目的です。
糖質だけの朝食だと血糖値が急上昇してからの急降下が起きやすく、それがまた不安感につながることがあります。
卵やヨーグルト、ナッツなど、タンパク質を含むものを一緒に摂るのが良いとされています。

軽い運動

激しい運動である必要はなくて、ストレッチや散歩程度で十分です。
体を動かすことで、過剰に分泌されたアドレナリンが消費されます。
朝の光を浴びるのと組み合わせて、朝に少し散歩するだけでも2つの効果が同時に得られます。

呼吸法(4-7-8呼吸)

4秒かけて吸って、7秒止めて、8秒かけて吐く。
この呼吸法は副交感神経を活性化させて、交感神経優位の状態を落ち着かせるのに効果があるとされています。
起きてすぐ布団の中でもできるので、手軽さという意味では一番取り入れやすいかもしれません。

冷水を顔にかける

迷走神経(副交感神経の主要な経路)を刺激する方法です。
冷水が顔に当たると、「潜水反射」という反応が起きて心拍数が下がり、副交感神経が活性化します。
朝の洗顔のときに、少し冷たい水で顔を洗うだけでも効果があるとされています。

心へのアプローチ

起きて30分はスマホを見ない

外部の刺激に反応する「リアクティブモード」を避けるためです。
30分と聞くと長く感じるかもしれませんが、その間に水を飲んで、光を浴びて、呼吸法をやって、朝食を食べていれば、意外とあっという間です。

5-4-3-2-1グラウンディング

不安が強いときに「今ここ」に意識を戻す方法です。
5つ見えるもの、4つ触れるもの、3つ聞こえるもの、2つ匂いがするもの、1つ味がするもの——これを順番に意識していくだけです。

これが効くのは、不安が「まだ起きていない未来のこと」に意識が飛んでいるときに、強制的に「今、この瞬間の感覚」に引き戻してくれるからです。
前頭前皮質がまだ弱い朝でも、五感に集中するだけなので実行しやすいのも良い点だと思います。

認知の再構成

これはCBT(認知行動療法)で使われる手法で、不安な思考に対して「本当にそうか?」と問い直すやり方です。

たとえば、朝起きて「今日のミーティング、絶対うまくいかない」という思考が浮かんだとします。
そこで「本当に"絶対"うまくいかないのか? 前回のミーティングはどうだった? 最悪の場合、実際に何が起こる?」と自分に質問してみる。

朝は前頭前皮質が弱いので、感情的な思考をそのまま受け入れてしまいやすいのですが、「あ、これは朝だから大げさに感じてるだけかもしれない」と気づけるだけでも違います。

朝のルーティンを決めておく

個人的に、これが一番実用的だと思っています。
朝の不安が起きやすいのは、前頭前皮質がまだ弱い状態で「今日何しよう」「あれもやらなきゃ」と考え始めてしまうからです。

だったら、起きてから30分くらいの動きを決めておいて、何も考えずにそれをやるだけにしてしまう。
水を飲む→カーテンを開ける→顔を洗う→朝食を作る。
こういう順番を決めてしまえば、判断を必要とする場面が減るので、前頭前皮質に負担をかけずに朝を乗り切れます。

まとめ

朝の不安は体の仕組みとして起こるものですが、カフェインのタイミングやスマホ、睡眠不足、血糖値の低下、脱水など、日常の習慣がそれを必要以上に強めている場合があります。

逆に、光を浴びる、水を飲む、コーヒーのタイミングをずらす、
呼吸法を試す、スマホを少し遠ざけるといった小さな工夫で、朝の不安を和らげることはできます。
どれも特別なことではないのですが、体の仕組みを知った上で「なぜこれが効くのか」を理解していると、試してみようという気持ちになりやすいと思います。

次の記事では、もう少し長い目で見た「朝の不安との付き合い方」について書いていきます。
不安を消そうとするのではなく、不安があるまま日常を送るための考え方についてです。

参考文献

  • IDC Research / Facebook (2013). "Always Connected: How Smartphones and Social Keep Us Engaged." ― 米国18〜44歳の79%が起床後15分以内にスマートフォンを確認するという調査。なお「80%」「10分以内に66%」は複数のマーケティング調査(IDC 2013、Deloitte 2016等)の数値が組み合わされたもので、単一の一次研究ではない点に留意。
  • van Schrojenstein Lantman, M., Mackus, M., van de Loo, A. J. A. E., & Verster, J. C. (2017). "The impact of alcohol hangover symptoms on cognitive and physical functioning, and mood." Human Psychopharmacology: Clinical and Experimental, 32(5), e2623. ― 若年成人の22.6%が二日酔い中に不安を報告したデータ。
  • 江崎グリコ株式会社 (2018年2月). 月曜日の憂鬱に関するアンケート調査(共同通信PRWire配信)― 働く男性77.5%、働く女性86.5%が月曜日を憂鬱と回答した調査。
  • 小川知紘(ヤフー・データソリューション)(2021年11月2日). 「『サザエさん症候群』は悩みを的確に表したすごい言葉だった」ヤフー・データソリューション公式note(https://note.com/ds_yahoojp/n/nb659187613f2)― Yahoo検索データで日曜18時以降に「つらい時の乗り越え方」等の検索が増加する分析。
  • Kunz-Ebrecht, S. R. et al. (2004). "Differences in cortisol awakening response on work days and weekends in women and men from the Whitehall II cohort." Psychoneuroendocrinology, 29(4), 516–528. ― 勤務日と休日のCAR差を示した研究(第1回参考文献より再掲)。
  • American Academy of Sleep Medicine (2024). "Stress, anxiety and depression survey shows mental health conditions disrupt a majority of Americans' sleep." ― ストレス・不安と睡眠障害の関連データ(第1回参考文献より再掲)。