上司が嫌いで頭から離れなかった僕が、心を組み替えるために頼った4つの考え方

心身
リラックスできている画像
上司の顔を見るだけで気持ちが沈み、声を聞くだけで体が固くなる、そんな状態が続いていた時期がありました。 席を離れる回数を減らしたり、仕事の引き受け方を変えたりすれば、表面的な負担は多少減らせるかもしれません。 でも、帰宅してからも頭の中で繰り返し再生される上司の振る舞いや、湧いてくる嫌悪感までは、行動を変えるだけでは消せませんでした。 この記事では、その時期に手に取った本や言葉のなかから、心の置き場所を変えるのに役立った4つの考え方を整理してみます。 上司その人を変える方法ではなく、上司という存在に振り回されていた僕自身の心の使い方を、少しずつ組み替えていくための視点になります。

1. 嫌悪感は現実そのものではなく、自分が重ねた解釈である

最初に支えになったのは、禅の考え方でした。

鎌倉末から室町にかけて活躍した禅僧、夢窓疎石をはじめ、禅の流れには、人が苦しんでいるのは現実そのものではなく、現実の上に自分が描いた物語の方である、という趣旨の見方があります。

この見方を、自分の状況に当てはめてみました。

僕の頭にこびりついていた上司の振る舞いがいくつかあります。

仕事を急に振ってきて、しまいには自分がやるべき仕事まで振ってくること。
その本人はタバコ休憩ばかりで席を空けていて、戻ってくれば「忙しい、忙しい」と口にしていること。

こうした一つひとつです。

これらは事象としては、ただ起きているだけのことです。
雨が降る、風が吹く、というのと同じ層の出来事と捉えることもできます。

僕を本当に苦しめていたのは、事象そのものではありませんでした。
「自分はサボっているくせに、こちらに押し付けている」
「都合よく利用されている」
その上に重ねていた解釈の方です。

事象と解釈を切り離して見るようになると、少し楽になりました。
上司の行動はコントロールできなくても、解釈は自分で選び直せるからです。

2. 反応するかしないかは、自分で選べる

次に効いたのは、外部の刺激に対して反応しないという発想でした。

誰かの言動で簡単に心を乱されているとき、その相手に感情のスイッチを渡してしまっている状態である、という考え方があります。
スイッチが向こう側にあって、向こうが押すたびにこちらが動いてしまうわけです。

上司の無神経な一言で僕が落ち込んでしまうのなら、僕の感情の起伏は上司の振る舞い次第ということになります。
これに気づいたときは、なかなか居心地が悪いものでした。

反応しないというのは、相手を無視することとは違います。
相手の振る舞いを観察はしつつ、自分の内側の状態までは揺らさないように構える、という意味です。

「ああ、この人は今こういう振る舞いをしているな」と一段引いた場所から眺めてみます。
そうしていると、嫌悪感の濃さは少しずつ薄まっていきました。

職場の中で、一歩引いて眺めている画像

3. 「できる人」という看板を下ろしてみる

禅を世界に広めた仏教学者、鈴木大拙が紹介してきた禅の考え方のなかに、

松は松として、竹は竹として、それぞれの本性のままにあることこそが自由である

という趣旨のものがあります。

肩肘を張って何者かであろうとせず、ただそのままの自分でいる状態を、自由と呼んでいる、という捉え方になります。

この見方を、自分の状況に当てはめてみました。

そもそも僕が上司に振り回されるようになったきっかけは、最初の頃に仕事を「うまいことやってしまった」ことでした。
できる人だと思われたい気持ちから、無理をしてでも引き受けてしまい、その積み重ねが、「こいつなら振っても大丈夫」という認識を相手に作らせていったのだと思います。

つまり、上司の振る舞いを呼び込んでいたのは、僕自身の「できる人でいたい」という看板でもあったわけです。

そこで、その看板を少しずつ下ろしてみることにしました。
「断るのが下手な自分」
「全部はこなせない自分」
を、まず自分で認めるところから始めます。

そのうえで、具体的にやったことが二つあります。

ひとつは、仕事を振られたときに、その業務は何のためにやるのかを冷静に聞くようにしたことです。
その上司は自分の思いつきで何でも仕事をやらせようとしていたので、目的を聞かれただけで答えに詰まることがありました。
そうやって、そもそもやらなくてよい仕事を手前ではじけるようになっていきました。

もうひとつは、振られた仕事をあえてやらない、という選択をしたことです。
すべて受けて完璧にこなそうとするのをやめて、優先度が低いと自分が判断したものは後回しにしたり、手を付けないままにしたりしました。

最初は「やらなかったら何か言われるのではないか」と身構えていたのですが、実際にはほとんどの場合、何ごともなく流れていきました。
自分が抱えていた「全部こなさなければ」という思い込みの方が、現実より大きく膨らんでいたわけです。

何者かでなければいけないという力みを少しずつ手放していくと、相手の言葉を真正面から受け止めなくて済むようになっていきました。

4. 思考のエネルギーを、上司ではなく自分の関心事に向け直す

東洋の大哲人として知られる中村天風は、まだ起きていないことを気に病む「取り越し苦労」と、過ぎたことをいつまでも引きずる「持ち越し苦労」を、生命のエネルギーをすり減らすものとして退けています。

僕は、上司の顔を思い出しては腹を立て、明日また顔を合わせることを考えては憂鬱になっていました。
過去と未来を行ったり来たりしながら、自分のエネルギーを上司のために燃やし続けていた状態です。

頭の中で上司の振る舞いを反芻している時間、自分が本当に向けたい関心事に注ぐはずだった集中力は、すべてその反芻に吸い取られていきます。

そこで、上司の顔が頭に浮かんできたら、意識して別のテーマに思考を切り替えるようにしました。
書きかけの文章のこと、読みたい本のこと、夕飯のこと、何でも構いません。

エネルギーの向け先を選び直しているうちに、上司は次第に「自分が時間を割いて考えなくてもよい対象」になっていきました。

まとめ:環境を変えるのではなく、見方を変える

上司その人を変えるのは、ほぼ不可能です。
組織の文化を変えるのも、一個人の力ではなかなか難しいでしょう。

でも、その状況をどう受け止めるかという自分の側の構えは、今この瞬間からでも組み替えていけます。

  • 嫌悪感は現実そのものではなく、自分が重ねた解釈です
  • 相手の言動に反応するかしないかは、自分で選び直せます
  • 「できる人」という看板を下ろせば、振られた仕事を真正面から受け止めずに済みます
  • 思考のエネルギーは、上司ではなく自分の関心事に向け直します

すべてを一度に実践しようとすると無理が出ますが、どれかひとつでも頭の片隅に置いておくと、上司の前に立ったときの体のこわばり方が少し変わってきます。

僕の場合、心の使い方が変わってきたころには、上司の言動はそれほど気にならなくなっていました。
状況そのものはほとんど変わっていなかったはずなのにです。

参考

  • 中村天風『運命を拓く』
  • 鈴木大拙『日本的霊性』ほか
  • 夢窓疎石『夢中問答集』

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